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日々香好日 TOKYO
 Brand lunch documentary

このドキュメントは、香りの道具専門ブランド「日々香好日」が立ち上がるまでの軌跡をまとめたものである。そのプロセスを慎重に振り返ることで、ブランドのphilosophy、concept、statement、thoughtといったcoreを浮き彫りにしたかった。気が遠くなる試みではあったが、いざ組み上げてみると、細部に魂は宿る。そんな言葉を思い出した。ブランド立ち上げの過程は最早大筋と言える様な細部を折々にブランドに落とし込むことの繰り返しだったように思う。さて、そんな細部を読み手はどう解釈してくれるだろうか。このドキュメントを通じて、少しでも日々香好日の興味、理解そして共感に繋がればそのことは大変喜ばしい。

[ 当該ブランドにおける香りの構成要素とその名称 ]

1. 契機

1_1香り愛好家の一人としての、仮説

私は香りが好きだ。暮らしと香りが柔らかく接地している。パフュームをはじめ、キャンドルやオイル、ハンドクリームにもそのシチュエーションに合わせたニュアンスを求め聞き分けている。梅雨に纏いたいフレグランス、母の命日に焚くお線香、お疲れ様と迎えてくれる玄関のポプリといった具合で、まさに私の暮らしのリズムには欠かせないアイテムとなっている。私は香りに何を求め、何を与えられているのだろうか。その不確かな存在は、確かな説明をしてくれることはない。そんな香りの不思議について、ここ何年も折に触れ思いを巡らせてきた。辿り着いた私なりの感覚値に近い答えとして、香りは間という現象に置き換えられるのではというものだ。香りを感じる時感じたい時、立ち止まる自分がいて僅かな瞬間かもしれないが間が生まれる。そんな間は、暮らしに気づきをもたらす。ただ流れていくだけだった景色が、彩られた記憶に変わる。知らず知らずのうちに香りという間が、私の暮らしの豊かさに繋がっていたのかも知れない。香りに魅了された人間として、このことは正解であると信じたい。

1_2香りの魅力を伝播したい、する

そんな香りの魅力を紐解く時間は、同時に香りの魅力をより多くの人に知ってほしいという気持ちの高まりに、強く寄与した。私の周辺だけの話かもしれないが、そこまで多くの人が香りの存在を愛用しているイメージがない。ハンドクリーム等もどちらかと言えば、香り<効能が優先で選ばれている気がする。今のライフスタイルのスピード感に香りの非合理的で奥ゆかしい感じがそぐわないのかもしれない。だとすれば余計、暮らしの転調材になるかもしれない香りの魅力を訴えることは意味があるのでは。そんな欲求は素直に次の行動へのモチベーションとなっていく。私にも何かできることはないだろうか。こちらは、シンプルに正解が出せた。香りを好きになるきっかけをもたらすオリジナルブランドとして設立しよう。そのブランドを通して、香りという間を暮らしにインストールする価値を伝えよう。その延長に香り文化の浸透に少しでも貢献できればいいなといった具合だ。この時点で、ブランドを設立する以外は何も決まってないのだから、自分でも中々肝が据わっていると思う。

1_3冠が舞い降りるが、実態はない

さて、何をどうするか。やきもき思案状態が続き、一向に霧が晴れない。この香りブランドが提供したい価値は明白だ。香りがもたらす間という現象を通して、その傍にある暮らしの素敵化や充実化に貢献したい。その実現が成功すれば、必ず香り好きが増えることに繋がるからだ。そんな悶々とした葛藤も、決して無駄ではないからおもしろい。スーッとブランド名の閃きを導いてくれたのだ。降りてきたとでも言おうか。日々香好日と書き、ヒビコウニテコウジツと読む。ブランド名を一目見て、直感的にその価値を感じ入るものにしたいと考えていたので、それが結実した表現なのではと思う。禅の日日是好日の教えからインスパイアされたものだが、香りのもつ根本的な魅力は今昔変わらないので、そういった歴史への敬意や継承の自覚もメッセージとして含まれている。と大風呂敷を広げてみたものの、どのようにすれば、香りで沢山の好日をもたらし、ブランド名を体現することが可能なのか。この時点で悶々が解消される見込みはない。その大きな要因は、香りマーケットはすでに充実飽和化しており、つけ入る隙はほぼない。という視界を霞ませる紛れもない事実だ。

1_4骨董の豆皿が、教えてくれたこと

とは言いつつも香りマーケットを俯瞰し続けることは止めなかった。同時に日々香好日への愛着もどんどん深まっていった。その想いはマーケットのどこかに未知なる可能性が転がっていて、その可能性はマーケット内外の人たちを巻き込み、ブランドの立ち位置をはっきりさせると根拠のない確信に変わっていった。そんな折いよいよことが動き出す。ある朝、インセンスを聞こうと火をつけ、香受け替わりの骨董の豆皿にそれを置いた際、小さな発見をした。古びた豆皿が確信へと誘ってくれたのだ。振り返れば、自分が欲しい、使いたいと思える香受けがないから、その代用品としてそれを使っている訳で。アロマオイルも同様に、登山中に拾った特徴あるフォルムの小石に染み込ませ、香りを拡散させている。よくよく考えてみると、私は愛着の持てる香り専用の道具を持っていなかったのだ。なぜか?香り関連の道具やそれを専門に開発するメーカーは殆どない。作家物などの一部例外を除いて、デザインや機能性を有した奢侈品となると一気にその選択肢が少なくなる。パフューム系など自身の体をハブにする香類では、そういった道具は必要ない。だが、空間をキャンバスにするインセンスやオイル、ディフューザー等は香皿やストーン、リードといったハブとなる道具の存在が欠かせない。であるにも関わらず、積極的にそれらを提案している専門メーカーをgoogleですら知らないようだ。現在マーケットにおける、香類のカテゴリーは確立されている。パフュームやオイル、インセンスといった具合に。多くの香りメーカーは香類の先の香源でオリジナリティを追求し、独自のブランディング戦略を掛け合わせ、世界観を構築している傾向がある。そしてユーザーに対して、香類×香源の選択肢のみを明示する。香りの道具はユーザー頼みだ。そんな実情は、私の香り暮らしからも見て取れ、そういったユーザーも多いのではと思えてならなかった。香りの道具の選択肢化。この実現は、既に香り愛好家の方達にも、これからそうなるかもしれない方達にとっても、ポジティブな要素になりうるのでは。特に対空間向け香類の、道具の充実は喜ばれるのでは。自分の暮らしへの香りの落とし込みも、空間と美しい道具が絡むことでよりイメージしやすいのでは。そんなことを、猫の絵柄の豆皿を見つめながら組み上げていった。これがその日の朝、私が発見したマーケットにおける未知なる可能性であり、同時にブランドの方向性が明確に定まったことを意味した。私はこれから手掛けるであろうそんな道具達を、空間香具と名付けた。(香類×香源)×空間香具。日々香好日の未来となる公式だ。カッコ内は各メーカーにお任せし、日々香好日は空間香具を創り届けることに特化する。それは相乗効果となり結果、香りという間を通した好日が沢山生れる起点となり得るのではないだろうか。さて次は、いよいよ空間香具の形化だ。空間香具における、形の最適解をデザインで解くのだ。

2. 具現

2_1主役は香り、引き立て役として

香りと空間香具の力関係は、一目瞭然だ。日々香好日。このブランド名を見ても明らかである。香り>>>>>空間香具。つまり空間香具は、香りがなければなんの価値も生み出さないのだ。多くの香りは主に、香類と香源で構成されており、そこに空間香具を新たに加えようとしている訳だが、故にその必要性をここに整理しておきたい。三つが掛け合わさった時、どうなるのか。これは、香りそのものの魅力や効果、満足度を幾倍にもしてくれることに尽きると考える。香りをより良く聞ける。香りを可視化する。香りを共有したくなる。あの空間に香りを置きたくなる。香りを始めたくなる。香りで暮らしが楽しくなる。香りが欠かせなくなる。といった具合だ。複雑で難しいハードルのように思えるが、香りそのもののポテンシャルを綿密に追い求め、それに相応しい空間香具としての関係性を極めれば、絵空事で終わらないのでは。最も大切なことは、役割を越権しないことだ。タブーと言ってもいいだろう。我々はシンプルに引き立て役を徹底的に全うし、格別な香りを心地よくユーザーの鼻孔に届ける一助になれればいいのだ。空間香具の形化は、まずそんな整理の元動き出した。

2_2自問自答、求めている形とは?

形化にあたり意識したスタンスは、そもそもの着想である香りの道具の選択肢が少ない事実に対して、マーケットインではなく、プロダクトアウトの心構えである。マーケットをなぞり導く仮根拠を元にした形作りは、確かに正解に近づけるかもしれない。しかし、香りの持つ自由な特性やまだ見えぬ空間香具の形化には合わないと判断したのだ。また、私も香り好きを自任している以上自分が使いたくなる、それを使う価値を想像できる、自分が香りを通して培った感性を信じ、形化に活かしたい。私自身のバックボーンの一つであるプロダクトデザイナーのノウハウや経験を十二分に注ぎ込み、ユーザーに未体験の喜びを感じてもらいたい。といった二つの自負もあった。昨今の成功しているガレージブランドに感じる、まずは自分が欲しいで突き進むマインドの系譜に近いかもしれない。更なる決定事項として、インセンス・ディフューザー・アロマオイル・ポプリ等、対空間向けの香類のカテゴリーは限られている。であれば、各カテゴリーに対して何らかのアプローチで必ず専用の空間香具を作るということも決まった。

2_3暮らしからの、逆算

空間香具は、ユーザーが設置したい場所で機能化することを前提としている。玄関やリビング、オフィスのデスクなど。それは形化における要件のようなもので、多くのユーザーの暮らしの軌道になだらかに溶け込むことを目指した。我々の提案がそもそものライフスタイル群と反発しあえば元も子もない。従って、サイズ感や素材、機能性の選択も、現代の暮らしの様々な様式ソースに準じ決定していく。こだわり抜かれた特別な建築に住んでいる方は少数派で、嗜好性の出やすい家具は別として、一般的な1部屋の大きさやフローリングやクロスの色など空間の基本となる部分に大きな差はない。そういった多数派の空間を意識した落としどころを見つけ、空間香具として柔軟な協調性を持たせたい。一方、それだけでは形としては物足りないとも考える。形には発想や工夫で、一目で美しいと感じてもらうことや使ってみたいとワクワクさせる等の力を備えさせることが可能だ。空間香具は、線のさりげない主張や素材の組み合わせの妙、説明不要に気持ちよく使えるといった、直観への刺激や気づきも奇抜に寄せないバランスで追求し担保する。この二つの方向性を組み合わせた丁寧な形化は、ユーザーの暮らしの一員に加わり続けることを可能にする特別な権利となるはずだ。

2_4勘違いに救われた、デザイン工程

このタイミングでブランドの共感者を集い、デザインチームを発足させた。これまでの迷走が功を奏したのか、線に落とし込む前の要件整理を徹底したからなのか、殊の外デザイン作業はスムーズに進んだ。次々に生まれるデザインは、空間香具の名に相応しい物達ばかりだった。各香類のバリエーションに対して、複数のアプローチによる落とし込みにも成功し、どんどんラインナップは充実していった。いよいよ模型製作に移行しようしたタイミングでなぜか迷いが生まれてしまう。この迷いの感覚はこれまでの私の経験では、何か勘違いをしていて結果自分を戒めるケースがほとんどだった。今一度沢山のデザインを並べて、迷いの原因を探るため立ち止まってみた。やはりそこにはブランドの在り方とずれたしっかりとした勘違いが私を見つめていた。目の前の充実のラインナップ群は、空間香具の意思をとてもわかりづらくしていた。デザインの選択肢が沢山あることは素晴らしいことだと思う。しかし、空間香具は香りのためのもの。香りを引き立てる黒子の役割に千差万別の選択肢を設けてしまったために、主役がぼやけてしまう状況を作っていたのだ。また、知らぬうちに違いを出したくデザイン性も強くなってしまい、前述の協調性に欠け、バランスを崩れてしまっていた。これでは、駄目だ。目指すべき空間香具の意匠とは?チームでもう一度最適解を目指すべく、目の前の勘違いを丁寧に紐解き、苦悩と共に再デザイン作業に戻った。振り出し状態から一つ一つを組み上げていく作業はこれまでとは逆で、慎重性と引き換えに時間が伴うものだった。ただその時間を通してはっきりしたことがある。空間香具に必要な意匠は、確立された各香類のカテゴリーに対して、それぞれマスターデザインが1つあれば事足りるというものだった。いきなり定番を作ると言えば大袈裟かもしれないが、それぐらい狙いをシンプルかつ狭めることでブランドやそのプロダクトのメッセージがわかりやすくユーザーに伝わり、本来の目的の達成に貢献できるのではという考えに至ったのだ。これから立ち上げるブランドだからこそ、これが我々の定番ですという打ち出し方も間違ってはいない。意匠の追求と同時に、定番の名に恥じぬよう、模型やサンプル制作の過程の中で、適切なサイズ感や機能性の凝縮、使いやすさへの配慮も徹底的に検証した。勿論適正な販売価格になることも見据えて。最終的にチームで2年余りの試行錯誤の元、日々香好日はブランドを象徴するflagship productを1種、オリジナルの香類を1種、5つの香類のカテゴリーに対して5種、計7種の空間香具の定番を完成させた。私はそれらにorbit7~orbit13の称号を割り当てた。称号が7スタートである理由はまた別の機会にでも。いずれにしろようやく、形化が叶ったのだった。

3. 形諸々

3_1 orbit:07flagship product

3_1 orbit:07 flagship product

スティックタイプのインセンスを専用の真鍮蓋に取り付け火を点し、ガラス筒にそっと被せる。煙の立ち上がりに呼応するかのように、香りはガラス内をじっくりと対流する。そして遮る蓋のわずかの隙間をのんびりとくぐり抜け、香りは上昇を始める。対流と上昇、そのどちら共の優雅な表情は、まるで香りが呼吸しているかのよう。その佇まいに、目が潤い、時がわずかに止まる。Flagship productその冠に相応しい、空間香具と言えるだろう。

3_2 orbit:08 original diffuser

3_2 orbit:08 original diffuser

リードをペーパーに組み替えたディフューザー。そんなブランドの好奇心は、ディフューザーのサイズ・場所・香りの交換において、3つの新解釈を付与させた。サイズのスモール化は、まさにリードの高さがなくなった恩恵と言える。それは同時に、置く場所の身軽な多様化をもたらす。注ぐ原液の最大量設定を工夫したことで気分に合わせた香りの選択も実現した。この一連の提案は、ディフューザーのポテンシャルを大胆に広げたと言えるのでは。

3_3 orbit:09 aroma candle

3_3 orbit:09 aroma candle

アロマキャンドルの灯りと香りを引き立てるスタンドとして、佇まいをインテリアに同調させるリッドとして、そんな二つのシンプルかつ効果的な特性を兼備した空間香具。八角形のそのフォルムはどのキャンドルとも相性が良く、真鍮の持ち手はリッチな印象をプロダクトに内包させた。揺らぐ灯火から柔く放たれるアロマ。鼻孔と繋がる心のざわめきが治まり始める。日常が静かに転調した。そんな優しげなキャンドルライフを願って。

3_4 orbit:10 aroma oil

3_4 orbit:10 aroma oil

一見他愛のない円柱のケース。事実、オイル瓶を整理収納できる、蓋を兼務するディッシュにそれらを気分に合わせ垂らす。この空間香具が持ち合わせているポテンシャルの全てだ。ただ、想像してみて欲しい。煩雑に置かれたオイル瓶、定まらないディッシュ。アロマオイルユーザーとしてそんなやきもきはなかっただろうか。今回のアプローチは決して飛躍的なものではない。しかし、香りをより好きになる起点をデザイン出来たことは、確かだ。

3_5 orbit:11 potpourri

3_5 orbit:11 potpourri

ポプリは、ドライしかりモイストもまずはその見た目の可愛さ可憐さで魅了する。木の実や果物の皮、見覚えある花弁。そんな素材が掛け合わさった時、どのような香りとして空間に染み込むんだろう。その見た目は、香りを楽しむヒントにこと欠かない。そんな楽しむをわかりやすく形に落とし込んだ、空間香具が仕上がった。そのピュアな佇まいは、瞬間的に今の暮らしにポプリをリンクさせてくれるだろう。余計な講釈などそこには必要ない。

3_6 orbit:12 incense

3_6 orbit:12 incense

香立ては、スティックタイプインセンスの種類や流通量をみても、香り周辺においてとてもポピュラーな道具の一つと言える。この道具にどうすれば、より空間との接続性を高められるだろうか。一つの提案として辿り着いたのがオブジェクト化だ。香立てに小さなステージを設け、用途に余白を設けた。この余白はただ置かれた香立てに立派な役割を与え、空間に香立て以上の影響を及ぼす。ユーザーのらしさがこの余白に多彩な表現をもたらすだろう。

3_7 orbit:13tea

3_7 orbit:13 tea

香りある暮らしへのハードルの一つとして、わざわざ香類を入手しそれらを日常に組み込むことへの非馴染み感が挙げられる。orbit13における試みは、この非馴染み感を軽くすること。手法はこの空間香具に香類への距離感を縮めるメッセージを内包させた。今の暮らしにある身近な良香を温めてみませんか。といった具合で。もしこの試みで距離感がチューニングされれば、必ず香りは当たり前な喜びとして暮らしの傍にインストールされるはずだ。

4.展開と展望

4_1空間香具、の増やし方

現在の7種のマスターデザインは共通の3つの異素材を組みあわせ仕上げた。そこには、今後のプロダクトの形を変更しないバリエーション展開を見込んだ狙いがある。現状の素材の組み合わせが暮らしに最もマッチするユーザーもいるだろう。しかし、北欧やアンティーク、黒などの色で統一感をだす等インテリアの嗜好性は非常に多様だ。そういった様々な暮らしの様式ソースに適切に応える方法として、3つの異素材を各様式ソースに合わせ組み替え展開していくやり方があるのではと考えた。単純なカラーバリエーションの増加やリサイズなどに比べ、ユーザーにとって決めてとなる判断軸を用意することになる。また、マスターデザインを大切にしているブランドの姿勢を表現していることにも繋がる。何よりブランドとして空間香具を通して、少しでも香りを暮らしに取り込む接点を増やすバランスの取れた最適解がみつかったのでは。勿論各プロダクトは定番とはいえ、実際の使用感等のユーザーの声に耳を傾け、当然のように細かいアップデートは繰り返していく予定だ。

4_2研究結果を貯める、機を待つ

空間香具の形化の過程で、実に多くのメーカーの香類×香源に触れることになった。ディフューザー、インセンス、オイル、キャンドル等、香類カテゴリーを網羅することを念頭に、様々な店舗へ足を運びつぶさに研究した。メーカーによる好みの差はあれ、それぞれの香類×香源が放つ一貫性のある世界観は、私に畏敬に近い感覚を味わわせた。さらに、内装や什器、ショッパー、パッケージ、働く方の対応に至るまで、その充実度は目を見張るものがあった。その場の特別感は、ユーザーの高揚とポジティブに呼応し、目の前の香りを更なる高みへ押し上げていた。この事実は、私の想像の源泉となり、香りへの建設的なイメージ化をもたらしブランドの未来にふくよかさを与えてくれた。まずは、空間香具の日々香好日としてブランドの立ち位置を確立させる。その考えは変わらない。但し、着実な成功が現実となった暁には、ブランドは幅を持つこととなる。オリジナルの香類×香源の開発は勿論のこと、香りの新ジャンルの提案も視野に入れている。日々香好日の新たなアプローチは、すでに準備されている状態だ。

4_3 香り学習、その意味とは

これは、目論見ではない。ビジネスという枠組みから外れた所で、取り組みたいことがある。香り好きとして、シンプルにそれにまつわる事々を一方的に発信しようと考えている。好きが故に、香りの情報に自然と近づくし、集まってきたりもする。その歴史や現在のマーケット状況、本や音楽といった文化との関わり等々。香りと暮らしとの実情に紐づく様々なデータの体系化も面白いかもしれない。自前商品を絡めることなく、それらをコンテンツ化しアーカイブしていく。ブランドにとってこれは、学びだ。私は日々香好日を少しでもより良いブランドに成長させたい。その為に、誰よりも学ぶ。学びは、個の知識・知恵・知性の成長を支え、その成長はブランドの進化・深化に繋がり、ユーザーの香りある暮らしに豊かさ・喜びとなり還元される。そんな、スパイラルを実現できないものだろうか。現状心意気だけはあるので、取り急ぎ香りに教わろうと思う。と同時に、そんな学びの蓄積の発信も並行して行う。発信の意図は、何処かでそんな香りの情報を探している人達がいるかもしれない。だとしたら、そこに辿り着けるように、情報を置いておくことに価値があると考えるからだ。

4_4ロゴに加えた、誇り

日々香好日のロゴにはTOKYOの5文字が組み込まれている。ブランドアイデンティティとして、東京発の香りブランドであることをメッセージ化した。香りに、言葉は必要ない。世界共通の感覚文化だ。百貨店の香り売り場に顔を出しても、そこには沢山の世界中のブランドの拘りぬかれた嗜好が表現され、ユーザーは嗅覚と想像性を駆使し選択している。私が好きな香りブランドの一つに、ニューヨーク生まれのものがある。そのブランドの香源はニューヨークで調合され、私を介して東京の街に溶け込むこととなる。当たり前のことであるがこんな所にも、どこか香りの自由で悠々と国境を越えて受け入れられてしまうシームレスな特性があるように感じてしまう。この話の流れだと、海外展開を視野に入れているのでは?と指摘されそうだが、この段階でそんな大風呂敷は広げられない。もし、そうなれば大変喜ばしいことではあるが。それ以上に東京発の想いとしては、日々香好日の空間香具は、TOKYOという大都市に居を構える人間だからこそ、その必要性や価値に気づき誕生した。そんな事実や背景を大切なニュアンスとして、残して置きたかったからだ。そのことは、今後アイデンティティがより成熟化したとしても、東京発の香りブランドであることの誇りだけは、決して揺るがないことを誓約している。

5.伝播 2026.2 追記

5_1 羽化、飛び方のゆくえ

ブランド立ち上げも7合目と言ったところだろうか。山あり谷あり地図なき道を進んできた。現状致命傷は負っていないはずだ。山行の中で、日々香好日の核となるフィロソフィーは丁寧に磨かれ、要となるプロダクトも慎重に落とし込まれた。次は、伝える。ブランドの価値を最適に編集し意図ある意思をマーケットに問う、そんな販促手法の検討に入る。翼となるコミュニケーションを見定めるフェイズだ。この章では、我々のプラン達成の解とその手法をまとめておきたい。販促における達成の意味合いは、ブランド毎で異なるが俯瞰してみると共通点も浮かび上がってくる。それは狙いが決して単一的ではなく、利益、ブランディング、市場占有率、社会的影響力などが複合的な達成を企てており、それを叶える良案を模索している様相だ。ブランドを推進し続けるには、理想と現実の塩梅を支配するバランス力が肝なのだろう。但し、上記要素の優先順位は設けるべきで、その結果次第で印象値は大きく様変わりし、一定の継続なくしては最早ブランドとは言えない。いずれにせよ、ここで立ち返るべきは、我々が何を最も大切にしているかだ。これは繰り返しになるが、香りという現象、そのハブとなる空間香具を通して、その先にある暮らしの豊かさへの一助となることだ。決してぶれない解と言える。つまり我々の販促は、解の変わらない方程式を状況に合わせ柔軟に考案し、忠実に遂行していけばいいのだ。と、さも簡単かつ流れるように綴ってみたがそんな手法は存在するのだろうか。まだ見えぬピーク同様雲に隠れたそれらを見つける山行に入ったのだった。果たして日々香好日は分相応に羽化し、途切れぬ青空を悠々と飛び続けられるのだろうか。

5_2 衝動、ここでも忠実に

暗中模索も慣れたもので、ヒントの所在もあの手この手を尽くせばひょこっと顔を出す。広辞苑をぱらぱらとめくると、販促とは、販売促進の略で、広告宣伝・セールス活動・販売店援助など需要創造のために行う活動の総称とのことだ。[需要創造]という聞きなれない言葉に目が留まる。販促の真意がこの四文字に見て取れたからだ。おおよそ販促とは顧客に「売りたい」ではなく、顧客の「買いたい」という衝動を創ることなのでは。そんな衝動は顧客とブランドにとって信頼の礎であり、解を受け入れる土壌となるのだろう。手法考案が複雑化していく中、この気づきは肩を少し軽くさせた。販促手法の根をこの衝動創り一点に絞ろうと決断した。その根から解が咲く算段だ。日々香好日をいかに「それが欲しい」と喚起して頂くか、私はブランドの文脈から衝動の導火線を探し求めた。[しょうどう]反射的な動きを想起させるその言い回しは、奇をてらったアイデアやいかにインパクトを残すか、そんな事ばかりに焦点を合わさせようとした。どうも嚙み合ってくれない。これらの着想は、香りという現象が持つ慎ましさや奥ゆかしさとも乖離し、ブランドのリズムから一番遠くにあるように思えた。人の心を動かすことが衝動の大意であるなら、なにも反応をより強く速く引き出すことだけがその要件を満たす訳ではない。じんわりと深く大切に仕舞って置きたくなる、そんな問いかけのような衝動。それこそ我々が追いかけるべき最適解なのでは。日々香好日が奏でる旋律は、より香りの特性に忠実であるべきなのだ。だとすれば、こんな手法はどうだろうか。正々堂々と香りで通じた間がもたらす世界で魅了するのだ。またとない情景・前向きな予感・立ち止まるきっかけなど、そんな淡い価値をイメージ化し、顧客の視線の先に置いておく。イメージ群に触れればそれらは衝動装置となり、物語を誘発させ解への道標となる。我々が提唱している仮説の立証とも相まって、これ以上ない手法のように思えてくる。ようやくピークへの地図は描けた気がした。次はこの下地を基本に具体案を練り上げ、マーケットへ繋がる表現へ昇華させる。そして、飛び立ちの瞬間に備えるのだ。

5_3 素材、畑を耕す

山行も終盤となり販促手法の具体的落とし込みに入った。一気に駆け上がりたい思いとは裏腹に、ここでも理論と感性を融合させた冷静な判断が求められる。前項ブランドは顧客に対し最適な衝動を設ければ事は動くと記したが、大前提顧客はロボットでもAIでもない。血が通う人間なのだ。人間の意思決定に至る道のりはそう単純なものではない。ブランドはそんな道程に対し空気を読んだ多様な手法を準備しなければならない。大枠の一般論として、各々の手法には行使するタイミングと然るべきプラットフォームが既に存在する。タイミングは、顧客のモチベーション[認知→興味→収集→比較→決定]の変遷に沿うことを強要し、プラットフォームは顧客とのタッチポイント[SNS・web・EC・カタログ・実店舗等]における手段を限定させる。そんな暗黙を無視した独自の戦略を練れるほど余裕もなく、ここは大多数の顧客動向との調和を目指したい。早速私はモチベーション×タッチポイントに即した衝動装置の設計に取り掛かった。それなりの設計図が組みあがっていく過程で、恒例の想定外が待ち受けていた。図を具現化するためには、素材が必要だ。有名シェフの絶品レシピも選ばれし素材がなければ美味しさに辿り着かない。販促も同様でスチールやテキスト、音源等それら素材がなければ図は決して表現に昇華されない。その中でも重要となるのは各手法を横断するようなメイン素材だ。販促全体のトーンやマナーを決定づけ、ブランディングの傘ともなる。今回のケースであれば、「香りで通じた間がもたらす世界で魅了する」と公言しているので、その世界観を可視化した素材が妥当であるだろう…。このタイミングで躓きに気づいてしまった。やれやれである。どうやっても脳内の想像と目の前の実態が紐づかない。なぜなら、私の求める素材がどこを探しても存在しなかったのだ。このことは、図の表現化不可能を意味する。冷静に考えれば当然でブランドが提唱する世界は新しい仮説であり、まだ誰も提唱していない。自身も間の様な現象を感じることはあっても、その素材化に挑んだことはない。この事実は重く、キッチンに立つ前にまずは畑を耕す必然性をブランドに課した。もはや自前でメイン素材を育てる道しか残っていなかった。稚拙な山行計画はその変更を余儀なくし、継がなくピークを目指すことを諦めさせた。私は多角的に素材を見極め揃えたいと考え、急遽メンバーを集め協力を求めた。これまでのあらましを丁寧に説明し、「みんなの暮らしにおける間がもたらす瞬間を集めて欲しい」とお願いした。瞬間的に好奇心と戸惑いが交差したものの、それぞれによる素材作りを受託してくれた。遠回りだとしてもピークに向け進んでいる。盲目的にそのことだけは信じるようにした。だが、この想定外がブランド羽化への運命的な一手になるとは、この時点で私は知る由もなかった。

5_4 解は、視線の先に

先日ある著名なミュージシャンが自分は[孤独]ではない[孤高]であるとメディアを通して語りかけていた。私は素直に彼の言葉から日々香好日が辿り着きたい在り方を学んだ気がした。[孤高]であることは、一筋縄ではなくそう在り続けることは現状維持では決して叶わないように思えた。故に、その存在は尊く眩いのであろう。少し話はそれてしまったが、時計の針は刻々と進み待望の素材が集まり始めていた。あの懇願後、我々は週1回品評会さながら顔を合わせ拾い集めた可能性を擦り合わせた。意外な展開もしれないがここからはポジティブな事象に包まれ続けた。まさに晴天の稜線を進むかのごとく。一番の驚きは、「みんなの暮らしにおける間がもたらす瞬間を集めて欲しい」という問いに対して、皆のニュアンスがずれないのだ。しかも、素材毎にキャラクターもはっきり浮き彫りになっている。[夜の公園の街灯・たわむカーテン・交差するエスカレーター・キッチンから聞こえる調理音・とらえられない形の光・文豪が紡いだ一節・娘が育てる観葉植物・帰り道の空・出勤中のざわめき・ストライプ柄のグラフィティ・下町の当たり前の佇まい・ボウルに浮かぶ金柑・湖に浮かぶ割れた氷・届かぬ恋の詩・切り取られた噴水の動き]ほんの一例だ。集まったその美しい集合知に触れてみると、誰しもの暮らしに間がもたらす確かな視線があった。これまで見過ごしていた、感じ入れなかったかもしれない、そんな視線達はブランドがもたらす解をはっきりと映し出していた。そして収集の継続は自然と二十四節気とリンクし、この素材をまたとない価値に深化させていくことも予感させた。私は賭けに勝ったような安堵感に加え、販促成立に向けた使命感がより強まった。この流れを絶対に逃さない。喜ばしい副産物も。今も続くメンバーでの素材品評会は、ブランドが目指す解をはっきりと共通認識化させ、さらには理屈を超えた心地よい推進力となっている。我々は収集と並行して、素材ストックを十二分に利用し阿吽の呼吸で次々と衝動装置を具現化していった。バランスをチューニングするぐらいで、もう後戻りすることはなかった。当初思い描いていた顧客のモチベーション×タッチポイントに即した、日々香好日の販促手法フルコースは、独自に編み出したスペシャリテも加えようやく完成を迎えた。
我々は何とかピークに登り詰めたのだった。そしてその事は、ブランド立ち上げ準備の完了を意味した。現状ピークからはまだ何も見えないが、飛び立ちの日は2026年4月に決定した。日々香好日はその日、[孤高]のブランドとして霞の向こう側へ高らかに飛び立つのだ。

6.装置諸々2026.2 追記

6_1Motivation level=認知

【Touchpoint】
店舗・モニター・SNS広告・イベント

【Our Device】
旗艦店
SNS広告専用キービジュアル
キービジュアルムービー
https://www.instagram.com/p/DVcVqgVjSbN/
コンセプチャルポスター
提携モニター
キービジュアルムービー
キービジュアルムービー

6_2Motivation level=興味

【Touchpoint】
SNS・店頭チラシ

【Our Device】
インスピレーションインスタグラム
https://www.instagram.com/manakanoma/
メッセージインスタグラム
https://www.instagram.com/hibi_konite_kojitsu/
RED
キービジュアルムービー
https://www.instagram.com/p/DVcVqgVjSbN/
インスピレーションカタログ
インスピレーションインスタグラム
インスピレーションインスタグラム

6_3Motivation level=収集

【Touchpoint】
website・カタログ・店舗

【Our Device】
インスピレーションweb
https://hibiko.jp/
ブランドcore
https://hibiko.jp/about-us/
メインカタログ
接客
インスピレーションweb
インスピレーションweb

6_4Motivation level=比較

【Touchpoint】
website

【Our Device】
運営元web
http://manaka-ltd.jp/
Product process
note
https://note.com/hibikounite
接客
運営元web
運営元web

6_5Motivation level=体験

【Touchpoint】
店舗

【Our Device】
旗艦店内装
旗艦店インスタレーション
接客
flagship shop
flagship shop

6_6Motivation level=決定

【Touchpoint】
店舗

【Our Device】
接客
接客風景

6_7Motivation level=感化

【Touchpoint】
包装・ノベルティ・オンライン店舗

【Our Device】
パッケージ
ショッパー
マグネット
シークレットEC

7.心情

7_1join the orbit of your life

先日、奥多摩でテンカラ釣りを楽しんだ。何度も毛鉤を投げ入れながら沢を登っている際、俄雨に当たった。沢沿いの中木の下で難を逃れながら、雨が川に落ちる様子を眺めていた。しばらくすると、雨があがり雲間から強烈な日の光が川面に降り注いだ。水がキラキラと屈折する中、ぐわっとその場の湿度が上がるのを感じた。それに、引っぱり出されるかのように大自然の複雑で豊潤な香りが立った。苔、岩、川水、木々、落葉、光、雨、土。混ざり合うそれらを、思い切り吸い込んだ時の多幸感は、何とも言えないものがあった。遠い昔から変わることのない、人間が決して作ることが出来ない、大自然が紡ぐ香り。プルーストのマドレーヌの様にまた一つ、香りと情景がリンクし、記憶された瞬間だった。こうして香りは、悠久誰かの生きる軌道に乗り続ける。そして、フラジャイルな装置として今と過去を鮮やかに繋ぎ合わせる。まるで人生の旅行記を追憶させるかのごとく。そんな特性に魅惑され、その時代の人達がその時代のやり方で香りを作ろう、再現しようとしたのは、軌道に埋め込まれた記憶を呼び起こそうとする本能に忠実な試みなのかもしれない。そしてそうした香りを巡る幾つもの小さな創造は束となり、時代をも横断する大きな潮流を生み出し、香りを文化として世界の隅々まで浸透させていったのではないだろうか。日々香好日の小さな創造が生まれたのも、ともすれば必然だった。この長きにわたるブランド創造の過程で、そう思わせる心緒に至った自分がいる。

7_2最後に

ようやく、このドキュメントも終わりを迎えます。ブランド立ち上げの道は、紆余曲折なプロセスであったものの、とてもとても充実していた。日々香好日が、香りを通してあなたの生きる軌道に乗れるとしたら、なんと幸運なことだろうか。あなたの暮らしに間をもたらしたい。あなたのかけがえのない情景との結びつきとなりたい。そんなことを、改めて切に願います。日々香好日の香りを巡る物語は始まったばかりです。何処かでお会いできることを楽しみにしております。

日々香好日 TOKYO
クリエティブ統括ディレクター
宮嶋孝尚

While compiling this documentary ,
the song I listened to the most was birds of a feather of Billie Eilish.

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